研究設備

電子線形加速器

京大化研電子線形加速器KEL

 京都大学 化学研究所 イオン線形加速器棟には電子ビームを10 ~ 100 MeV のエネルギーに加速可能な電子線形加速器(KAKEN Electron Linac:KEL)がありKELは主にプリバンチャー、バンチャー、それと3本の加速管で構成されている(図1,2)。プリバンチャーは定在波型リエントラント空洞でバンチャーは進行波型加速管である。3本の加速管はそれぞれ全長3 mの定勾配型ディスクロード型であり、仕様上の最大加速勾配は15 MeV/mである。動作周波数はすべてSバンド(2857 MHz)であり、高周波電力は20 MW出力のクライストロン(PV-3030A)によって供給している。

図1:KELビームライン
図2:KEL加速管

 KELは電子蓄積リングKSRの入射器として使用されているが、電子ビームを使用した様々な実験にも使用されている。KEL単体の運用としては主に以下の2つのビームラインを用意してある。

1.KEL大強度ビームライン(0°ビームライン)

 図1のKEL-BM2を励磁せずにまっすぐに電子ビームを通した先がKEL大強度ビームラインであり、(図3)典型的な電子ビームの条件を表1にまとめる。ここでは主に放射線治療や放射線化学・生物学に関する研究開発に利用され、特に近年注目を集めている超高線量率放射線治療FLASHの照射場としての使用されている。これまでに量子科学技術研究開発機構(QST)、岡山大学、北海道大学、Institut Pluridisciplinaire Hubert Curien(IPHC, France)などが外部ユーザーとして利用している。

このビームラインで安定的に提供できる最小の電子ビーム電流は約0.5 mA 程度であり、これはKEL内の電子ビーム電流モニター(CT)の感度限界で決定している。したがって、プラスチックシンチレータやプロファイルモニタを照射ポートの先に別途用意することで更なる低電流ビームの供給も可能である。しかし、3本の加速管が動作している時点で大量の電子が発生・加速されており、ここでは電子一つ一つを識別して測定するような実験は難しい。そういった所謂検出器開発やテストのために開発されたビームラインが、次に紹介するKEL単電子ビームラインである。

図3:0度ビームライン照射ポート
繰り返し周波数20 Hz
電子ビームパルス幅1.2 us
電子ビーム電流(ピーク)20 mA
電子ビーム電流(平均)400 nA
電子ビームエネルギー10 – 70 MeV
パルス線量率5 Gy/pulse
平均線量率100 Gy/s
表1:0度ビームラインの典型的な電子ビーム条件

2.KEL 単電子ビームライン(90°ビームライン)

 図1のKEL-BM2を励磁して90°偏向させた先が単電子ビームラインである(図4)。このビームラインに電子を通す場合は原則として電子ビームの加速電圧を落とし、なおかつ電子銃下流のゲートバルブを閉じることにしている。つまり、このビームラインは加速管の放電などで発生したわずかな電子を加速して使用することで極低強度の単電子提供を可能としている。したがって、表1に示す繰り返し周波数が基本的なイベントレートの指標となっており、20 ~ 40 Hz のイベントレートが典型的な使用例である。

 このビームラインでは、KEL-BM2に励磁する磁場を変化させることで10 ~ 70 MeV までのほぼ単色エネルギーの電子を提供することが可能である。ここでは主に検出器開発が行われており、これまでに理化学研究所やKEKなどの外部ユーザーが利用している。また、外部ユーザーだけでなく大学院生の実験などにも使用されており、検出器のテストとして汎用性の高いビームラインとなっている。

図4:90度ビームライン照射ポート
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